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12月17日、福島県知事と県民健康調査検討委員会座長に対し、「学校における甲状腺エコー検査継続を求める要望書」を提出すると共に、学校現場の先生方からの527筆の署名、意見フォームで呼びかけた一般からの要望の声200筆を届けてまいりました。

要望書を受け取り、対応してくださったのは保健福祉部県民健康調査課長の菅野達也さん、主幹兼副課長の二階堂一広さん、主任主査の長谷川貴志さんの3名でした。

要望書提出に至った経緯については元検討委員の成井先生から、以下のようにお伝えしました。
〇県民健康調査検討委員会・甲状腺検査評価部会の中では、これまで何度も甲状腺の学校検査のあり方について「強制性」や「現場の負担」が問題だという議論が繰り返されてきたが、そういった議論が見当違いなため現場の声を届けようと思った。
〇学校検査は癌を見つけるという目的だけではなく子どもの権利を守っている。〇表には出さずとも、子どもも保護者も実は不安を抱いている。定期的に見ていくことで安心や健康への自信にもつながっている。

次に、要望事項の確認として、問題とされている「現場の負担」に関してはシステム的な問題であり、人的支援を行うことで解消ができること、検査は同意書を伴う検査なので「強制性」はないことを改めて伝えました。また、「強制性」の中でもうひとつの理由として言われている「一人ぼっちになる生徒がいること」に関しては、もしもそういった問題があるのであれば、個人の意見が尊重されるように環境を整えるべきであり、検査のあり方を変更する理由にはならないことをお伝えしました。

成井先生からの補足として、「一人ぼっちになる」といったことも実際には異なり、強制性については4巡目の検査の途中で、今までの検討委員会での議論を受けて2020年3月に放射線医学県民健康管理センターがメリット・デメリットを文書化し、さらに動画でも解説を行っていることが伝えられ、これらのメリット・デメリットを明確にする対策により、より任意性を担保する効果が上がっていることも話されました。

以上のことを伝えた上で、なぜ「学校現場のあり方を見直す」という議論がされているのかを改めて確認したところ、以下のような回答がありました。
〇検討委員会の中では強制性についての議論が行われているが、学校現場の疲弊についての議論はしていない。疲弊に関しては検討委員会ではなく養護の先生の集まりの中で耳にしている。
〇(前回、第39回県民健康調査検討委員会の中で)星座長から学校現場の調査を行うという提案があったが、この調査の主旨は、任期交代で検討委員が代わり、新しい先生が学校検査に対し別のイメージ(学校検査=集団予防接種のような強制的なもの)を持っている。現状をふまえて議論するためには基本的なことを明らかにしなければならないので、実態を把握してもらうために我々が調査を行っている。

この回答を受けて、成井先生からは以下の発言がありました。
「そもそも、県民健康調査課から教育委員会に依頼して学校検査のシステムを作ったので、その詳細を理解している県民健康調査課が新たな検討委員の先生に説明すればいいだけのはずであり、わざわざ聞き取りに行かなくとも説明は可能ではないか。」
私たちとしても、県のこの回答は理解ができませんでした。

また、養護教員の集まりで「疲弊」を耳にしているということに関して、この度の署名には多くの養護教員からの署名が含まれていることも事実です。

「では、学校検査をやめるということはまったく考えていないのか」という成井先生からの質問に対しては「一部の委員から強制性の発言はあるがそういう議論はされていない。学校の疲弊に関しては大きなテーマではなく議論されていない。検討委員会の議論とは別」という回答でした。

要望事項に関しては以上ですが、私たちとしては確認しなければならないことが他にもありました。
ひとつは県議会12月定例会の一般質問の中で社民党の紺野長人議員が行った質問の内容について、もうひとつは、12月12日の朝日新聞に掲載された星座長の記事についてです。

福島県議会12月定例会一般質問の中での紺野議員の質問
【県民健康調査について】
質問①
次に、県民健康調査のあり方について質問します。
福島第一原発事故から10年を過ぎようとしており、被ばくから県民の健康を守る施策についても、医学的知見を重視した見直しが求められています。
県民健康調査の下で行われている甲状腺検査は、いまだに不安を抱いている県民もおり、希望者に対しては継続した検査が求められて当然です。
一方で、検査自体を負担に感じている県民も多く、学校単位の検査は強制的な要素もあり、取りやめるべきとの声も多く聞かれます。そこで、甲状腺検査のあり方を見直す時期と思いますが、県の考えをお尋ねします。
【回答:保健福祉部長 戸田光昭さん】
甲状腺検査のあり方につきましては、これまでも県民健康調査検討委員会において議論を行ってきており、現在も学校での検査に関することなどについて意見が交わされているところです。県といたしましては、今後の検討委員会での議論を踏まえ、県民の健康を見守るという観点から対応してまいります。

この質問の中にある
「検査自体を負担に感じている県民も多く」という部分についてはどの程度の声が上がっているのか、具体的な数を示せるのでしょうか。
「学校単位の検査は強制的な要素もあり、取りやめるべきとの声も多く聞かれます」という部分については承諾書を伴う任意検査なので強制性はありえません。強制性が問題と言うならばなぜ今まで沈黙をしていたのか。取りやめるべきという具体的な声を示すべきです。
この一般質問の内容について、県民健康調査課長に尋ねたところ、「なにを根拠にどういう考えで言っているかは分からないが、紺野議員が議員活動の中で知り得たことだと思うので、内容をどうこうとは言えない」との回答でした。

また、この質問に対する保健福祉部長の回答には「検討委員会での議論を踏まえ」とあるのですが、検討委員会の議論だけなのか、市民の声は反映されないのか、これまでも学校検査の継続を求める要望書を提出してきましたが、県にも検討委員会でも反映されないならどこで反映されるのかということも尋ねました。
それに対しての答えは、「市民からの要望等は検討委員の先生方にも見ていただいている」とのことでしたが、成井先生が委員の時には様々な要望書を議論するよう検討委員会の中で発言されたこともあります。しかし、星座長は全く取り上げることもありませんでした。私たちの切なる願いは検討委員会での議論にのぼることもなく、とても軽いものだと感じました。

質問②
県民健康調査の甲状腺検査では、これまで悪性ないし悪性疑いとされた人は246人いると聞いていますが、甲状腺ガンは悪性度が極めて低く、多くは何の悪さもせず症状も出ないため、ガンに気づかずに生涯を終えるのが一般的です。ですから、解剖後の病理検査ではじめて甲状腺にガンがあったことに気づくことはそんなに珍しいことではありません。
一方で、県民健康調査は数ミリにも満たない腫瘍を検出し、その多くの方が全部または一部の摘出手術を受けています。しかしその後、成長とともに大きくなる手術痕、手術による傷痕への悩みや、結婚、出産への不安、さらに甲状腺ホルモン剤の生涯にわたる服用が必要となる方もおり、様々な負担と不安を抱えながら生きていくことを強いられています。
そこで、甲状腺検査の受診により治療等が必要になった方へのサポートを充実すべきと思いますが、県の考えをお尋ねし、私の質問を終わります。
【回答:保健福祉部長 戸田光昭さん】
甲状腺検査の受診により治療等が必要になった方のサポートにつきましては、平成27年度より甲状腺検査後の治療等による経済的負担への支援を行う甲状腺検査サポート事業を実施しており、平成30年度には対象者の拡充を行ったところです。引き続き利便性の向上などについて検討をすすめ、治療等が必要になった方の支援に努めてまいります。

この質問にある「県民健康調査は数ミリにも満たない腫瘍を検出し、その多くの方が全部または一部の摘出手術を受けています」という部分について、県民健康調査の手術症例を見ると30ミリを超える腫瘍がすでに11名報告されています。また、5ミリ以下の結節に関しては基本的には細胞診もしないという枠組みでA2結節という分類があり、このA2結節が将来大きくなった場合すぐに対応できるようにするために、検査は継続的に繰り返し行うということになっていました。検査を縮小する方向性は、そもそもの検査の枠組みにも反します。
また、5ミリ~10ミリの結節に関しても「過剰診断を防ぐための判断基準」という厳密で穿刺吸引細胞診の基準が決められています。

従って、この紺野議員の発言は誤りであり検討委員会に確認する必要があるのではないかと質問したところ県民健康調査課長からは「議員のお考えなのでなにかを言うことはしない。明らかな事実誤認であれば正すが」という説明がありました。(明らかな事実誤認であるということは、前段でしました通りです。)
続けて主幹兼副課長の二階堂さんから「『数ミリにも満たない腫瘍を検出し』はエコー検査の精度のことで、『その多くの方が全部または一部の摘出手術を受けています』という部分については『数ミリにも満たない腫瘍を』という部分のことではない。つながった文章だが別」という説明がありました。
これも意味不明でかなり苦しい回答だったと思います。前の質問に対し、議員の質問内容は個人の意見でもあり、詳細は承知しないと菅野課長からは回答されていますが、なぜかこの部分では細かい言葉の言い回しまで解説があったのもとても不思議です。

この12月議会での紺野長人議員の発言は正されることもなく議事録に残ることになります。
原発事故後の子どもたちの健康を見守るという目的で行われている県民健康調査の実態を、正しく理解しないまま議会で誤った発言するということは、福島県議会のあり方が問われる大問題なのではないでしょうか。

次に、12月12日に朝日新聞に掲載された県民健康調査検討委員会の座長、星北斗さんの記事についてです。

記事の中には「検査を受けなければ、一生見つけずに済むものを見つけ、恐怖と闘う可能性があると十分伝えたうえで、検査を望むかどうか判断してもらうしかない。データが必要だからと、無理強いしてはいけない」とあります。
県民健康調査検討委員会の座長という肩書でのインタビュー記事は信頼性のある記事として受け止められることを問題視し、私たちは県民健康調査課長に以下のことをお伝えしました。

「検査を続けることが子どもたちに不安や恐怖を与えるということについては、不安要素をもたらした原発事故という事実を直視すべきではないでしょうか。子どもたちへの検査は原発事故という原因があってのこと。不安にさせてはいけないという説は、実態がありながらなかったことにしようとする議論ではないでしょうか。本来ならば、未曽有の原発事故が発生し、子どもたちに無用な被曝をさせてしまった責任をどう果たすかの話であり、私たちが子どもたちに対しできることは、これ以上の被曝をさせないこと、長期的に健康を見守っていくことぐらいしかないのではないでしょうか。
私たちは今、なにが大事なのかを問われています。過ちを未来に生かすためにも、私たちは事故の影響を明らかにしていかなければならないと思います。検査のあり方を見直すことが検査の縮小を意味するならば、それはとても無責任なことだと思います。「今の実態」とはどういう意味なのでしょうか?事故後の実態は検査を続けなければ分からないと思います。責任を果たすということは検査縮小ではなく維持・継続だと思います。」

これに対し県民健康調査課長は「メリット・デメリットを理解した上で希望した人が検査を受けていくべきという意味ではないか。データをとるため無理強いということは過去にそういう議論もあった。分かりやすく丁寧に環境を整えると言いたいのでは?」と話していました。
この記事には「甲状腺がんの放射線影響証拠ない」という見出しがつけられていますが、「メディアがそう載せているだけ」という県民健康調査課長の受け止め方についても、とても不誠実な印象を受けました。

最後に、今現在行われている学校現場の調査と星座長が行うと言っていた調査について確認をしたところ、今現在行っているのは県による調査で、星座長が行う調査とは別。星座長による調査は対象も目的も決まっていないとのことでした。第39回検討委員会の中でのやり取りを振り返れば、これについても大きな疑問が残ります。

原発事故の被害を受けた子どもたちの健康を長期的に見守っていくという目的で始まった健康調査が当たり前に継続できないのは一体なぜなのか、学校検査は強制的ではないことが分かっていながら、なぜわざわざ現場の調査を行うのかなど、なんとも謎の多い県民健康調査です。あり方を見直すべきは学校検査ではなく、こういった体制なのではないでしょうか。

今回行った申し入れの中で撮影が許可されたのは要望書提出の場面のみで、担当者たちとの意見交換の場面は非公開で行われました。また、要望書に対する回答も「うちの課ではこれまでも同様の対応だった」と、文書による回答を拒否されました。

原発事故後の県民健康調査のあり方を問う申し入れの内容をなぜ非公開にしなければならないのかは大きな疑問です。大事な議論がこのままグレーにされてしまわないよう、改めて文書による回答、オープンなやり取りを求めていきたいと思います。

<記事鉛筆:千葉由美>

要望書提出
https://youtu.be/V4rvEXiTE_Y

 

記者会見
https://youtu.be/ua8-x7PBLis

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